成人式を迎えた年の夏のある日。
ワタスは、新宿のマルイメン(メンズブランドがたくさん入ったお店)で
買い物をしていた。
お気に入りであるhiromichiのお洋服を何着か購入して
すっかりホクホク気分のワタス。
早く自宅へ帰って、ひとりファッションショーしなきゃ・・・なんて
考えながら、大きな買い物袋をぶら下げ、マルイメンを出ると、
前方から歩いてくる3人組が、ワタスの目にとまった。
いや、正確には3人の中の一番右側にいたオンナだけに
目がいってしまったのだ。
──あれ…カブじゃん…?
ぴったりと全身を覆った黒いスパッツ姿に
オールバックにして後ろでたばねた髪、
ファンデーションだけの白塗り顔。
その恰好はどう見ても、「ショーの前のオカマ」。
成人式で、カブがオカマバーで働いていると聞いていたし
すぐそばには、新宿二丁目。
あのオンナ(?)は、間違いなく「職場に向かうカブ」に違いない。
そう直感的に思ったワタスは、
顔をそむけるようにして、カブの隣を横切った。
カブに気付かれたら、なんか気まずいし…どうかバレませんように。
っていうか、元から親しかったわけじゃないし
もうワタスの顔だって、覚えちゃいないだろうけどね。
無事にカブのそばを通り過ぎ、
ホッと安堵した瞬間、
「アムロくぅぅぅ~~~ん!」
え……。
「アムロくぅぅぅ~~~ん!」
背後から聞こえてくるこの声は、ワタスを呼んでいる……。
また直感的なものだったが、ワタスはそう強く感じた。
名前間違ってるけど……。
恐る恐る声のする方へ振り向くと
「メイク途中」を思わせる顔したカブが、小走りで駆け寄ってきた。
「久しぶりぃぃ~~!」
「あ、ひ、久しぶりだね・・・」
「こっち(東京)に住んでるの?」
「そうそう」
「じゃあ、今度うちの店に遊びにきてよ! すぐそこにある店だから!」
「う、うん。そうだね。行く行く」
「待ってるね~ん。じゃあね~」
「……」
そしてまた、カブはお仲間たちと
新宿二丁目へと向かって歩みだした。
カブと偶然再会し、
初めて一対一で会話をした場所が、
まさか新宿二丁目のまん前だなんて……。
恐ろしく因縁めいたものを感じる。
とはいえ、社交辞令で「お店に遊びに行く」なんて
言っちゃったものの、結局それから数年経っても
ワタスは一度もそのオカマバーには
足を踏み入れていない。
カブ……いや、カオルちゃんは、元気にしているかすら。
──おわり。